「これ、この人のモノだよなぁ。足元においてくれれば、この子か、私が座れるのに。」と思いましたが、バッグがこの女性のモノという確たる証拠もなく、 もんもんと娘と二人でバッグの方を向いてしばらく立っていました。すると、私たち親子の背中側の座席に座っている初老の男性が 「ほい。どかしてもらって座ればいいぞ。」と言ってくださったのですが、私はその男性にニコニコと笑顔を返しながらも、 窓側の女性になにも言えませんでした。
この座席に座りたいという気持ちはすでに無くなっていました。「次の駅で、もし、お年寄りが乗車してきたら、 この女の人に声をかけてバッグをどかしてもらおう。」と考えていました。こんなに混んでいる電車の中で、 手軽に下に置けるはずのキャリーバッグを自分の足下や棚に置かずに座席に置いている行為が許せなかったのです。次の駅に停車して乗ってきたのは、 お年寄り扱いしたら怒られてしまいそうな元気な老婦人でした。でも、その老婦人もバッグの座席に気づいたようで、時折こちらを見ています。 「どうしよう。どうしよう。」と悩みました。声をかける勇気を「よし。」と出しかけた時にあることに気づきました。 女性はヘッドフォンをつけて携帯から音楽らしきものを聴いていたのです。私の勇気は完全にくじけてしまいました。
結局、彼女が降りた金山までバッグは座席に乗っていました。彼女がバッグを持って電車を降りた後にその2つの座席が空いた訳ですが、 私は周りの人に「なんだ。座りたかったんじゃないか。」と思われるのが嫌で座りませんでした。娘に「座る?」と聞いたら、 「もう、名古屋だから良い。」という返事。結局、立っている人がいるのにも関わらず名古屋までその座席は空いたままでした。 名古屋で私と娘は電車を降り、さきほど声をかけてくださった男性も降車して、大勢の人の中に消えていきました。